本気の遊びを手に入れろ!

トレーニングデザイン

目次

• なぜ「結果を急ぐ」と、子どもの動きは崩れてしまうのか?

• 体を正しく使いスポーツを楽しむ人生へ

• 「体を開く」という動作は、実は“投資”です

• 「開く」と「閉じる」は、体の動きであり、生き方そのものです

• 思いやり・人権と、体の動きはつながっています

• 運動は「呼吸」に集約されます

なぜ「結果を急ぐ」と、子どもの動きは崩れてしまうのか?

スポーツにおいて、本来の意味で「良い動き」は、最初から結果を生むとは限りません。
たとえばテニスで正しい体の使い方を身につけようとすると、最初はボールがコートに入らないことがよく起こります。体全体をしなやかに使う動きは、タイミングや感覚がまだ未熟な段階では、どうしてもズレが生じるからです。

しかしここで多くの場合、「まずはコートに入れなさい」「ミスを減らしなさい」という別の目標が設定されます。すると子どもは、良い動きを作ることよりも、とにかく結果を出すことを優先するようになります。

このとき何が起きるかというと、体の動きは自然な流れを失い、筋肉の力だけで動きを止めたり調整したりする方法に変わっていきます。一時的には安定し、結果も出やすくなりますが、体のしなやかさや伸びていく力は失われてしまいます。

本来、スポーツの動きは、体を大きく使い、力を流し、連動させる中で育つものです。ところが、まだ身についていない段階で結果だけを求めてしまうと、その「育つ途中の形」そのものが壊れてしまうのです。

これは子どもの努力不足ではありません。
「できる前に結果を求めすぎる環境」が原因です。

だからこそ、私たちは
• すぐに成果が出なくても
• 失敗があっても
• 遠回りに見えても

体の使い方そのものを育てる時間を大切にしたいと考えています。

結果は後からついてきます。
体の中に「正しい流れ」が育っていれば、ある時自然と、速く・強く・安定した動きへと変わっていきます。

子どもたちには、結果を出すための体ではなく、
成長し続けられる体を手に入れてほしい。
そのために、今は「うまくいかない時間」も、非常に大切な学びの一部なのです。

体を正しく使いスポーツを楽しむ人生へ

私たちは、サッカーの動きを
「開く」「閉じる」という身体の使い方で捉えています。

「開く」動きは、身体を滑車のように使い、
地面から受けた力を無理なく全身へ通し、方向を変える働きです。
力を押し出すのではなく、引き上げて伝えるイメージです。

一方、「閉じる」動きは、身体の中心をジャッキのように安定させ、
重心を素早く持ち上げ、次の動きへすぐ移れる状態をつくります。
これは大きな筋力ではなく、反応の速さを生むための使い方です。

この「滑車」と「ジャッキ」が自然に使えると、
強く踏ん張らなくても、速く、しなやかに動くことができます。

しかし近年のスポーツでは、
本来この二つの仕組みで処理される動きを、
筋力や勢いだけで解決しようとする場面が増えているように見えます。

その結果、身体が途中で折れたり、
腰・膝・足首など一部に負担が集中し、
成長期の子どもにとってはケガや動きづらさにつながることがあります。

私たちのトレーニングでは、
まず鬼ごっこやケンケンパなどの遊びを通して、
身体を自由に使う感覚を育てます。

その上で、サッカーの中で
「開く=滑車」「閉じる=ジャッキ」という身体の仕組みを学んでいきます。

これは今すぐ結果を出すためのものではなく、
将来にわたって動き続けられる身体をつくるための取り組みです。

「体を開く」という動作は、実は“投資”です

体を開いて大きく動くことには、ひとつ明確なデメリットがあります。
それは、動く距離が大きくなり、時間がかかるということです。
つまり、瞬間的に見ると不利に見えるのです。

たとえばテニスでは、体を開いてラケットを大きく使うと、スイングの軌道は長くなります。そのため、準備が遅れると振り遅れてしまうことが起こります。
だから上達している選手ほど、ボールが来てから動くのではなく、あらかじめラケットを後ろに引いて準備を終えた状態で動き始めます。

逆に、移動してから振ろうとすると、相手の球が速いほど間に合いません。
これは技術の問題ではなく、「準備の問題」です。

この構造は、実は日常生活ともよく似ています。
• 前日のうちに学校の準備をしておく
• 朝に慌てないように段取りを済ませておく
• 食材をスーパーで買うのではなく、育てて収穫する

どれも、先に手間をかけて、後で楽になる行為です。

体を開く動作もまったく同じです。
その場では遠回りに見えますが、準備を重ねることで、
• 力を使わず
• 安定し
• 大きなエネルギーを生み出せる

ようになります。

つまり、体を開くという動作は
「今すぐの結果」ではなく、「未来の動きを良くするための投資」なのです。

結果を急ぐと、体はこの投資をやめ、近道として筋肉の力だけに頼るようになります。
一時的にはうまくいきますが、成長はそこで止まってしまいます。

私たちは、子どもたちに
「今すぐうまくやる方法」ではなく、
「これから先も伸び続ける体の使い方」を身につけてほしいと考えています。

体を開くこと、準備を大切にすること、遠回りを恐れないこと。
それはすべて、未来への投資なのです。

「開く」と「閉じる」は、体の動きであり、生き方そのものです

体を「開く」という動作は、
日常の積み重ねを表す動きです。

日本の感覚で言えば、
• 晴れと褻なら「褻」
• 陰陽なら「陰」
• 侘び寂びに通じるもの

目立たず、静かで、すぐには結果が見えません。
けれど、未来のために淡々と準備を重ねる行為です。

体を開くと、動く距離は長くなります。
だからこそ、準備が必要になります。
テニスであれば、ラケットを早めに構え、動く前に準備を終えること。
日常で言えば、前日に準備を済ませること、日々の食事や生活を整えること。

これはすべて、未来に向けた投資です。


一方で、体を「閉じる」動作は、
非日常を表します。
• 晴れ
• 陽
• 祭り

一気に力を集め、爆発させる動きです。
これは消費であり、祝祭の動作です。

ただし、ここに大きな違いがあります。

筋肉の力だけに頼って体を閉じてしまうと、
体は常に「すべての重さ」を持ち上げることになります。
これは続きません。
だから、力任せの非日常は、いずれ体を壊します。

本来、体を閉じる動作は、
日常で蓄えた力を、一瞬だけ使うための仕組みです。
ジャッキのように、小さな力で大きな力を生み出す動作です。

だからこそ、祭りは毎日行われるものではありません。
限られた日にだけ行われるから、美しく、力強いのです。


私たちが大切にしているのは、
「いつも全力で頑張る体」ではありません。
• 日常では体を開き、整え、蓄える
• 必要な場面でだけ、体を閉じて力を使う

この循環を、子どもたちの体に育てていくことです。

スポーツの動きは、
そのまま生き方に現れます。

結果を急がず、日常を大切にすること。
それが、長く動ける体と、しなやかな心をつくると考えています。

思いやり・人権と、体の動きはつながっています

私たちが大切にしているのは、
技術や結果の前に、人として安心して存在できることです。

人を思いやること、
相手を尊重すること、
「君は君のままでいい」と認め合うこと。

これは心の話のように聞こえるかもしれませんが、
実は体の中で起きていることと深くつながっています。


スポーツの動きの中では、
走る・跳ぶ・蹴るといった動作のたびに、
体には必ず「衝撃」が加わります。

本来、人の体はその衝撃を
一点で受け止めるのではなく、
全身に流し、循環させる仕組みを持っています。

それが
• 楕円運動
• 体の各部分が順番につながる動き(キネマティックリンク)

です。

衝撃をうまく流せているとき、
体はしなやかで、無理がなく、壊れにくくなります。


しかし、安心できない状態ではどうなるでしょうか。

否定される、比べられる、
結果を求められすぎる、
失敗を許されない。

こうした外からの圧力は、
体にも「外力」として加わります。

その状態では、
体は衝撃を流せず、
筋肉で無理に止めようとします。
動きは硬くなり、疲れやすく、ケガにつながりやすくなります。


だからこそ、家庭や身近な大人の存在が大切です。

家庭は、子どもにとっての「家」のようなもの。
外で受けた衝撃や緊張を、
そのまま受け止めてくれる場所です。

親が笑顔でいること、
話を聞いてくれること、
結果ではなく存在を認めてくれること。

それによって、子どもの体は安心して「閉じる」ことができます。
守られることで、体は初めて力を抜き、
衝撃を流す準備が整います。


安心して閉じられた体は、
再び自然に開き、
楕円運動や全身の連動を取り戻します。

何も考えなくても動けること。
身を任せられること。
リラックスして集中できること。

これは、信頼と尊重の中でしか生まれません。


人を思いやること、
相手を否定しないこと、
人権を尊重すること。

それは理念だけの話ではなく、
子どもの体が安全に動き、成長し続けるための土台です。

私たちは、
強い子どもではなく、
しなやかで、安心して挑戦できる子どもを育てたいと考えています。

そのために、
運動も、生活も、人との関わりも、
すべてがつながっていることを大切にしています。

運動は「呼吸」に集約されます

体を開くこと、閉じること。
これは実はとてもシンプルで、呼吸そのものです。

吐くことで体は開き、
吸うことで体は閉じます。

ため息は「悪いもの」ではありません。
体が無意識に開こうとしている自然な反応です。


走る・動くときに起きていること

ランニングでよく言われる
「2回吐いて、2回吸う」という呼吸は、
• 開く・開く
• 閉じる・閉じる

という、両足の接地リズムと一致しています。

呼吸と動きがつながると、
体は無理に頑張らなくても前に進みます。

逆に、呼吸が乱れると、
人は筋肉の力で無理やり動こうとします。
その瞬間、動きは硬くなり、継続が難しくなります。


衝撃は「受け止めて、流す」もの

運動中、体には必ず衝撃が入ります。
その衝撃を、
• 楕円運動
• キネマティックリンク(関節の連動)

として体の中に流していくことで、
スピードやしなやかさが生まれます。

これは技術というより、
安心して身を任せられる状態があるかどうか、
に大きく左右されます。


家庭は「閉じる場所」

体を閉じる動作は、
外からの大きな力や衝撃に備えることです。

これは、家にとてもよく似ています。

学校で嫌なことがあった日、
うまくいかなかった日、
外で受けた衝撃を、
受け止めてくれる場所が家庭です。

親が焦りや期待、プレッシャーを
子どもにぶつけてしまうと、
体も心も閉じることができなくなります。


「君は君のままでいい」

この言葉を、
周囲の大人が伝え続けること。

そして、
相手・物・食べ物・生き物を
肯定的に受け取ること。

それが
体を閉じる力を育て、
安心から生まれる自然な運動、
自然な成長につながります。

これは甘やかしではなく、
人を人として尊重すること、
つまり人権の話でもあります。

運動も、呼吸も、心も、生活も、
すべて同じ原理でつながっています。

静かな日常(開く)を大切にし、
必要なときに力を発揮できる(閉じる)。

その土台を作るのが、
家庭であり、親のまなざしなのだと思います。